「2006/12/24」宍戸亮のクリスマス








色とりどりのイルミネーションが見慣れた景色を鮮やかに飾り、道行く人達の足取りもいつもよりどこか楽しげ。


着飾った少し騒がしい町で大好きな亮を待ってるあたしもその内の一人。


今日の待ち合わせ時間は6時。


今…。約束の時間より17分オーバーしてるけど、目の前を行き交う幸せそうな人達を見ていれば全然退屈しない。



っ…悪い!遅くなっちまった!!」



肩で息をしながら顔の前で両手を合わせる亮。



「走って来なくても全然へーきだったのに。好きな人を待つ時間って結構幸せなんだよー?知ってた?」



街路樹のベンチに座ったまま、さっきまで考えていた事を口にする。


そんなあたしの頭を、困った顔で優しくなでる。



「まったくはよ…。んなかわいい事、言いやがって」



ちょっと赤い顔した亮は、あたしの両手を引っ張り立ち上がらせてくれた。


でもね。本当なんだよ。
好きな人を待つ時間。かわいいと言ってくれる。頭をなでられる。


ただそれだけなのに、いつもよりも幸せな気分になれるのは


きっと今日がクリスマスだから!




幸せを噛み締めていると、不意に暖かい手に頬を包まれた。



「お前…手も顔もこんなに冷てーじゃねーか。いったい何時からここにいたんだよ?」


「なんか嬉しくて。んー。4時位からかな?」


「4時!?約束6時だっつったろ?バカかお前は。風邪ひいたらシャレになんねーぞ?」



相変わらず心配性だな。
亮の手がこんなにも暖かいから。
寒くなんてないよ。



「頑丈だけが取り柄ですから!雪も降ってないし、ね?それより今日はどこに連れてってくれるの?」


「ったく…。ついてこればわかる。それよりまず、左手、貸せ」



言われるままに左手を差し出す。



「1組しかねーからよ。ちょっとデケーけど我慢しろよな」



あたしの左手には、さっきまで亮がはめていた手袋。



「あ、あたしなら大丈夫だよ!手首冷やして怪我でもしたら、亮がテニス出来なくなっちゃうよ!」


が風邪引く方が困るからよ…」



そう言うと亮のコートのポケットに、手袋をしていないあたしの右手を入れる。



「あったかーい…」


「ったりめーだ」



さりげなく優しい亮。



「ちょっと遠いからよ。バスで行くぜ」


「うん」



あたし達はお互いの右手、左手を亮のポケットに入れたままバス停まで歩いた。











さすがに12月末だけあって、バスの中は暖房が効いていて暑い程だった。


それでも握った手は離さない。


傍から見たら嫌なカップルだろうけど、今日は特別な日だから。
大目に見てもらおうじゃないの。


曇ってる窓にこっそり「亮大好き」と書いて慌てて消す。



「ん?どーした?」


「あははは。なんでもなーい」



我ながら恥ずかしい事をしてしまった。変に浮かれてるからかな?
字を消した窓からは外の景色が流れていくのが見える。



「あれ?郊外に行くの?」


「ん、まぁな」



てっきり街中に行くと思ってたバスは、都内でも静かな住宅地を抜けて走っていた。



「…そろそろだな」



時計を気にしながら亮が言う。


約30分のバスでのドライブ。バスは目的地に到着した。


すっかり暖まっていた体は、外のひんやりした空気にまだ順応できない。



「おい。さっきより寒くなってねーか?」


「そうだねー。遠くに来たからかな?」


「雪でも降りそうだぜ」



お互いの体温を求めるように、体を寄せ合い歩きだした。








「疲れてねーか?」


「はぁはぁ…。まだ…へーき」



あたし達は小高い丘を目指して歩いていた。


そこに何があるのか分からないけど、わざわざ亮が連れてきてくれた場所。


もう膝がガクガクになってたけど、絶対に辿り着いてやるんだからっ!


あたしを心配しながら引っ張ってくれてる亮が



「ほら。着いたぜ」



と言って見せてくれたものは。



「…すっごーい…」



足元には夜景のイルミネーション。


着いた先は小さな公園のようになっていて。


手すりから身を乗り出さなくても見える夜景は、まるですぐそこに敷き詰められたキラキラのじゅうたんみたい。


感激のあまり言葉すら失う程の絶景。



「メリークリスマス。


「うん。メリークリスマス。亮」



しばらく二人で夜景に見とれていると。





───ドーン─…‥


と大きな音と共に冬の夜空に大輪の花が咲いた。



「あ!花火!」


「今日限定。200発。ちゃんと見とけよ?」


「うん!」












花火も終盤に差し掛かった頃、空から白いものがヒラヒラと舞い降りてきた。



「あ…。亮、雪だよ。ホワイトクリスマスだね…」


「お?寒いと思ったら。、寒くないか?」


「大丈夫だよ。亮、いるし」



亮が心配しないように答える。本当は少し寒いんだけどね。


そんなあたしを見抜いたのか、亮は。



「ちょっと飲み物買ってくるからよ。雪に埋もれねーように、そこの木の下で待っとけ」



と言い残し、自動販売機へと走って行ってしまった。


「この程度の雪じゃ埋もれないよー」



言われた通り、雪避けには丁度いい木の下へ移動する。


花火ももうすぐ終わりかな?なんて考えていると、亮がジュースを2本持って戻ってきた。



「…、知ってるか?」


「ん?なにが?」



あたしの問いに返事はしないで、亮があたしの横に並ぶ。



「ほらよ」



暖かいアップルティを渡され一口飲む。



「はぁ〜。生き返るよね」


雪の量も増え、キンキンした空気が突き刺さるように痛い。



「やせ我慢すんなって」



亮のコートに包まれる。


正確には


亮があたしを包み込むように後ろから抱き締めてくれている。



「知ってるか?」



さっきと同じ質問を繰り返す。



「だから何が?」



今度こそ答えを聴いてやろうと、振り向いた瞬間にキスされた。



「宿り木の下に立つ乙女はキスをされてもしょうがない…って話…」


「……じゃあ知ってる?宿り木の下でキスを交わした二人は永遠に幸せになれるって話」


「そっ、そうか…」


「うん!」





宿り木の伝説に頼らなくても、ずーっとこの先。
同じ気持ちで。一緒にいれるよね?


だって今日はクリスマスがくれた最高のプレゼント。







ここまで見てくれたあなたには次のページでおまけ小説まで見せちゃうわよ。
イヤだっていっても強制よ?

では!まず、アンケに参加してくれた皆様、ありがとうございました!

見事一位に輝きました宍戸さんとのクリスマス。

甘要素をふんだんに取り入れてみたつもりなんですが特に甘くもない。
甘夢ってすごくむずかしいですね。

こんな出来で、楽しみにして下さってた皆様(いたら奇跡)に申し訳ない限りでございます!!


おまけ小説へGO!





12月25日。


学校は休みに入ってっけど、部活はある。


俺等3年は夏に引退したけど、まだテニスに未練がある有志が集まって、たまに後輩の指導をしにこうやって部活に顔を出す。


着替えを済ました俺は、コートには行かず部室である人物を待っていた。



「おはようさん」


「おう」



待ってた人物。忍足がえらくニコニコしながら部室に入ってきた。


俺と忍足の他に人はいない。みんな部活動に行っちまってる。



「宍戸〜?昨日はお熱い夜だったやろ?」


「っばっ!ばかかテメーはよっ!」


「なんやの?冷たいなぁ。ちゃんとのクリスマス、どうしたらいいかって泣き付いてきたのは宍戸やん。1からレクチャーしたった俺に対して、ひどいわぁ…」


「あ、悪りぃ。ありがとな…」


「で?どやったん?ムード盛り上がりすぎてお泊りコースか?」


「狽サんなんしねーよ!!忍足じゃあるめーしよ!」


「なんや。あれだけ甘いシチュエーションを用意してもダメやったんか…。あ!あれや!宍戸に男の魅力がなかったんとちゃうか?」


「………そうかもな…」


「狽、わ!冗談やん!そない落ち込まんといて!まぁ、なんもなかったのが宍戸らしいっちゅー…」


「…した…」


「え?なんか言ったか?」


「…キス・した…」


「……(・д・)……ほんまか?」


「っ!何度も言わせんな!」


「さよか!よかったなぁ。これで宍戸も立派なオオカミや!次の段階、レクチャーしたろか?」


「……あぁ。頼む」



俺は準備していたノートとシャーペンを取り出した。




恋愛下手な俺。








どーもー佐波屋でぃっす!



ではここで追加設定。
今回恥ずかしがり屋の宍戸は、忍足に素敵クリスマスのシチュエーションを伝授され、その通りに実行しちゃってます。
だって何をどうしたらいいのかわかんない位、純情少年だから。
と言う訳で、本来なら
忍足なら恥ずかしげもなくやるだろうと言う、少しおかしな行動を忠実に守ってます。
キスした木には前もって宿り木も準備済。
次の日には忍足に報告とお礼をする。そんなかわいい宍戸さんでした。




「足元のじゅうたんのような夜景」は実際に佐波屋が体験したものでございます。
夜景がすごい綺麗なところがあって、佐波屋行った事なかったんですよ。
当時の彼氏に無理言って連れていってもらいましたね。
しかしすごかったですよ。本当に足元いっぱいに広がる夜景の絶景ったら。
忘れられませんね。



では最後まで読んで頂き、ありがとうございました!






Fin.