に一物








まさに偶然だった。


たまたま、本当にたまたま通りかかっただけなんだ。


部室棟の裏側に、 長太郎と女がいたんだ。








俺は二人に見つからない場所に身を屈めて様子を伺う事にした。


理由?


そんなの簡単だ。


『先輩であるこの俺を差し置いて女といちゃつくなんて長太郎のくせに激生意気だぜ!!』


そう思っただけだ。


今ならジャイアンの気持ちもわかる気がするぜ。





怒りをできるだけ我慢しながら様子を伺う事数分。





女が顔を赤らめてやがる!


長太郎の奴、満更でもなさそうなツラしやがって!


なんだかとっても・・・


むかつくな・・・!


話の内容がここからじゃよく聞こえねーな。


俺は更に近づく事に成功。


よし、なんとか会話らしきものが聞こえるな。





「・・・本当・・・あたし・・・嬉し・・・」





なんだと!?ここここれはもももももしかして!?


長太郎の奴、告られてやがんのか!?


あの女、長太郎に惚れてんのか!?


あんなノーコンで、暇さえありゃししゃも食ったり出したり、たまにはネックレスがししゃもに変わってたりする、カルシウム馬鹿を?


ウッソダーン!!


・・・・・・・・・・。


あ、間違えた。


激ダサだぜ!!


しっかしあの女も見る目ねーな。


俺のがよっぽどイイ男なのによ!


断れ!断るんだ長太郎!!


いや、お前が振られちまえ!!





「ははは・・・俺でよければ・・・だし・・・いいよ・・・」





オッケーしちゃったよ!こいつ!


ちくしょー・・・。なに二人して照れてやがる。


激、羨ま・・・じゃねー!むかつくぜ!!


っておい!何見つめあってんだよ!


・・・おおおおおおい長太郎?


お前、早まるな!今はまだ昼だぜ?そんな近づいてどーする。セクハラだぞ・・・って、あ゙あ゙ーーー!!!





肩のゴミ取ってやっただけか・・・。


びびらせんなよな・・・。





「ありが・・・やさし・・・これ・・・けど・・・」





だぁぁーーー!今度はなんだ!?


プレゼントかっ!?





「ああ・・・これ・・・いい・・・だね・・・」





博け取りましたーーー!!!


ちっくしょー!激、うらやまだぜ!!





「そういえば・・・宍戸くん・・・噂・・・てるの?」





え?なに?今『宍戸くん』って言った?


俺がどうしたって?噂ってなに?





「あー・・・宍戸さん・・・関係ない・・・だし・・・」





狽っさり拒否られたっ!?


なんだか知んねーけどこの屈辱感はなに!?





「でも・・・噂だと・・・だって・・・たし・・・」


「まさか・・・オレと宍戸さん・・・ホモ疑惑・・・ただの噂・・・あるわけ・・・ははは」





なんだよホモ疑惑って!?


俺と長太郎ってそんな風に見られてたのかっ!?


しかも噂にまでなってんのかよ?


これってどうなのよ、俺!?


長太郎も笑ってんじゃねーよ!


ここはバシッと否定しろよ!!





くっそー・・・。


ぶち壊してやる。


そのモーホ噂とやらを存分に利用して幸せカップルを引き裂いてやるぜ!


こんな恥をかいてんなら今更どうなってもかまわないからな。


ふはははは!


長太郎よ、もはやお前に後悔の時間はねぇ・・・!


悪く思うなよ。


俺に隠れて彼女つくった罰だ!!





俺は足音を立てて二人に近づいた。


俺に気付いた二人がバツの悪そうな顔をする。





「よう長太郎。何やってんだ?」


「あの、宍戸さん、これはですね・・・」




長太郎の奴、慌ててやがるな。

しかしもう遅い。

俺のミッションはなんびとたりとも止められないぜ。




「その女はなんだ?・・・長太郎・・・お前・・・俺というものがありながら浮気するとは激ダサだぜこんちくしょう!」




ふはははは!!見ろよ、真っ青になってる女と取り繕うとしてる長太郎。


人の幸せを破壊するのは愉快だぜ!


ジャイアンの気持ちがよくわかるぜ!




「ど、どういうこと?さっき噂だって言ったよね?鳳くん・・・」


「噂も何も、俺られっきとしたおホモだち。な?長太郎」


「あわわわわ・・・!宍戸さん、ちょっと!」


「そういうことだからよ、長太郎の事は綺麗さっぱりあきらめ・・・」


「ばかー!!宍戸くんのばかー!!宍戸くんのこと好きだったのにー!!うわーん」






・・・・・・・・・・・・




って、ええ!?


「宍戸さん・・・」


「え?」


「宍戸さんの気持ちはありがたいんですが・・・俺、ノーマルなんで・・・」


ええええ!?


「あ、これ。さっきの彼女が宍戸さんに渡してくれって・・・」


ええええええええ!?


「じゃ、オレも失礼します。あ、安心してください。今まで通り、オレは宍戸さんを先輩として尊敬してますから」


えぇぇぇぇぇえええええええええ!!??




泣きながら走っていった名も知らぬ彼女の後ろ姿と、気まずそうに立ち去る長太郎と、俺の手元に残ったプレゼントを交互に見る。


ええっ!?






その日俺は、まだ始まってもいない恋を失った。








教訓


"身から出た錆"









次の日から俺は『長太郎に振られた男』として全校に名を馳せる。


激ダサ、だぜ・・・!






Fin.