ヒヤシン








部活の3年生が引退して赤也が部長になった。

ただでさえ違う学校。逢う回数は今までよりもぐんと減った。


そして今日も。















「わーりぃ!打ち合わせが入っちまってよ。前部長と前副部長に呼び出し。終わるの何時になるかわかんねぇ」

「そっか・・。頑張ってね」

「おう。またな」




電話が切れる。




全国大会応援に行ったときに会ったけど、妙に存在感があって覚えてる。

前部長って、たしか幸村さん。あたし達を見て妖笑してた人だ。副部長は 「けしからん」だか「たるんどる」だか変な日本語使ってた人だと思う。



「もぅ!なんで今日なのよ」



邪魔するならあたしも用事ある時にしてくれればいいのに・・。


待ち合わせ場所へ向かっている途中の赤也からの電話。あたしはため息をついて反対方向へ歩き出した。









そのまま家に帰る気分ではなくて、ぶらつく事にした。



「あ、かわいい」



目に留まったのは店先で一際鮮やかな色をした変わった花。



「へぇ。他の色もあるんだ」



あまりのかわいさに見とれていると店員さんがあたしに気付いてやってきた。



「かわいいでしょ?この花は今日の誕生花なのよ」

「誕生花?」

「そう。毎日違うのよ」

「 なんていう花なんですか?」

「ヒヤシンスって言うの。聞いた事ない?」



ヒヤシンス… 。聞いたことはあるけど見るのは初めて。



「花言葉はね。勝負とかスポーツ。少し変わってるでしょ?」

「ふふ。本当だ」



スポーツ。と言う単語にまんま赤也を思い出す。あたしは店員さんに色んなお話を聞いた。










暗くなるのが早い。冬だもんね。

時間を見るために携帯を取り出す。



「あれ?」



いつのまにかマナーモードになっていた携帯には赤也からの不在着信が残っていた。


連絡くれたんだ。


急いでかけ直そうとしていたら赤也の方から電話がかかってきた。いいタイミング。



「もしもし?赤也、終わったの?」

「──っ!どこふらついてんだバカ!」

「え?」



いきなり怒鳴られても訳わかんない。



「今、家なんだろうな?」

「…まだ外…」

「はぁ!?なんでまだ帰ってないんだよ!?だからは──…」




赤也、今日は・・・。




いつもなら心地いい赤也の声も今はこれ以上聞きたくなくて、あたしは一方的に電話を切った。


喧嘩は、したくなかった。











なんで赤也は怒ってるの?

なんで今日なの?

だって今日は…。






近く公園のブランコに座り、さっきの電話を思い出すと涙があふれてくる。



「…赤也のばか…」

「───俺がなんだって?」

「あ…かやっ!?」



いつのまにか赤也が後ろに立っていた。



「バカ言う方がバカなんだぞ。バカはおまえだ。バカ」

「…っなんで…っ?」

「え?おい、泣いてんのかよっ?」



涙は見せたくなくて赤也から顔を背ける。



!こっち向けよ!なに泣いてんだよ!?」



強引に肩をつかみ振り向かせる。



「泣いてなんか…ないわよっ!」

「泣くなよ!あー。が…無事でよかった…」



さっきの電話では怒ってたはずの赤也にきつく抱き締められる。

赤也の暖かい胸に包まれ、強がって我慢していた涙が溢れる。



「さっきは…。その、なんだ…。怒鳴ったりしてごめん!の家行ってもいなくてさ。心配してたんだぜ?」

「あたしこそ・・・ごめん…」



涙と一緒にさっきまでのモヤモヤが体の中から出ていくみたい。

素直になれる。









、14歳おめでとう」

「あ…。憶えててくれたんだ」

「あたりまえだっつーの」



きつく抱き締められていたあたしはようやく解放された。



「ありがとう」

「おう!…って、あれ!?どこいった?」



慌ててキョロキョロ何かを探す。


「どーしたの?」

「いや…。あった!!」



暗い中赤也は捜し物を見つけたらしく、それを拾って戻ってくる。







手にはヒヤシンス






の姿見つけて、慌てて落としちまった。うわ。汚れてんじゃん」



ヒヤシンスの花束についた土をたたいて落とす。



「あんまり叩いたらかわいそうだよ」

「そうだな。まぁきれいになっただろ?落としたのだけどもらってよ」



へへっと鼻の下を擦りながら花束を突き出す。



「…落とし物じゃん…」

「だから悪かったって!中身はきれいなもんだからよ」

「…ありがとう」










受け取った花束は少し汚れてて、小さくて、お世辞にも豪華とは言えないけれど。



「うれし…。赤也、ありがとう」

「おっ、おう!ガラじゃないけどな。、これ知ってっか?今日の花なんだぜ」

「誕生花」

「なんだよ。知ってたのか。せっかく博識を披露しようとしてたのにな」

「花言葉は勝負で名前の由来は…」

「うわ!それ以上言うなって!俺の出番がなくなるだろ」

「まだまだあるよー」



目の前にいるのはいつもの赤也で、 誕生日に赤也と一緒に笑い合える小さいけど暖かい幸せ。



「 本当はもっと一緒にいたいけど、今日は送ってく。家でも祝ってくれんだろ?」

「うん。たぶん」

「名残惜しいけどしょーがねーな」



差し出された手にあたしの手を重ねる。



「花言葉はさ…」


赤也がぽつりと話す。


「黄色のヒヤシンス。 『あなたとなら幸せ』なんだってさ」







本当、そうだ。


あなたとなら幸せ。






Fin.