カタル








「先輩、部誌書くの遅すぎ」



すでに部員みんな帰ったと思った部室に、タオルで汗を拭きながら入ってきた日吉に目をやる。



「日吉だってこんな時間まで一人残って練習してんじゃん」



部誌に目を戻し、ペンを走らせる。



「俺は下克上目指して常日頃から自己鍛錬を怠ってないつもりですが?」



「意味わかんない」



横で着替える日吉に苦笑いで返す。



「ようやく終わった・・・。マネージャーの仕事も楽じゃないわね」



書き終えたばかりの部誌をパタンと閉じ、席を立つ。



あとはこれを職員室へ提出するだけ。



「先輩、部室の鍵預かりますよ」



「なんでー?」



「今日から俺が鍵当番しますよ」



「なに?どういう風の吹き回し?めんどいだけだよ?みんな帰るまで残ってなきゃいけないし」



部室のドアに手を掛けたまま振り返り、帰り支度の日吉を見る。



「先輩、部誌書くの遅いし」



「何度も言わないでよ。これでも必死なんだから」



「俺も個人練習で帰り遅くなるし」



「ふん?」



「外は暗いし」



「うん」



「痴漢・・・は、ないか」



「なにそれ!」



日吉の言いたいことがなんとなくわかったあたしは、赤くなった顔を隠すようにドアから出て部室の鍵を日吉に投げてよこした。



「職員室行って来る。ちゃんと鍵かけてよね」



「校門で待ってますよ」



わざわざ面倒臭い鍵当番を買って出るって事は・・・なんて都合のいいように考えるあたし。










Fin.