君にやさ








「ねぇブン太〜?」


ブン太の部屋でテスト勉強中。

でもあたしは久しぶりのデートだと発想の転換をして、このシチュエーションを満喫。


「ん?なんだ?」


「テニスの大会…」


「ぜってー来んなよ」


まだ言ってないじゃん。

なぜかブン太はテニスやってるところをあたしに見せてくれない。

ブン太がテニス少年だって事はこの部屋を見れば一目瞭然。

あたしの学校はテニス部が弱いから、どこが強いとか全然わかんないし。

ブン太が全国区プレイヤーだって事もいまいちピンとこないけど。

やっぱ見たいじゃない?彼氏の雄姿。


「なんでダメなの?」


「ダメったらダメ。が見ても面白くないだろぃ」


「そんな事ないもん。テニスは知らなくても、かっこいいブン太が見たいもん」


「ほぅ‥いーぜ。存分に、見ろよ」


ドサリと覆いかぶさってくる。


「…もっと見ろよ…」


「‥そーゆー意味じゃない‥」



本当に綺麗。

肌、白い。まつげ、長い。吸い込まれそう…。


今まで色んなブン太を見てきたけど、唯一、テニスしてるとこだけ見てないんだよね。

…試合、来月の第一日曜日だっけ…。

こっそり見に行ってもいいよね?


ごめん!ブン太!あたし、ブン太の全部が知りたいの!












えっ‥と。


あたしはテニスの大会が行われている会場に来ていた。


‥‥どこのコートでやってるかわかんない‥!!


予想以上に広い施設で、完全に迷子になっていた。


う〜。どうしよう‥。試合、終わっちゃってたりしないよね…?




「なんや自分もしかして迷子かいな」


天の助けとばかりに振り向くと、そこには中途半端な長髪で丸い眼鏡をかけた人と、銀髪で後ろ毛がちょこんと長い男の子がいた。


お互い違うウェア着てるけど、テニスウェア着てるって事は選手だよね?


「あの…。立海の試合は」


「なんや、俺の試合見にきたんと違うんか。てっきりファンの子かと思たわ」


「ほぉ。なかなかに美人さんやの。ところで…」


うわ。完全にしまった。道案内どころじゃなさそうな雰囲気…。

おたおたしてると、銀髪ちょろ毛の人が不思議そうにあたしの顔を覗き込んで。


「立海の応援って言ったな…俺の事は知っとるじゃろ?」


「…すいません。わかんないです…」


「お嬢ちゃん。こいつ、立海の選手なんやで?」


「あっ!そうなんですか」


やっばい!ブン太にばれたら…。

こっそりこの場を離れようとしたんだけど、銀髪ちょろ毛に捕まってしまったぁあ〜!


「立海の応援に来たんじゃろ?なら俺が案内しちゃろう。ここは飢えた狼達の巣窟だからの。女の子の一人歩きは危険がいっぱい…」


「狽ネんで俺の方見るん!?」


「あの眼鏡は狼1号じゃ。さ、行こうか。忍足君、またな」


あたしは肩に手を回されたままの格好で引っ張られていく。


やばいやばい。この状況はやばい。

なによりこのままブン太と鉢合わせはまずい!












「おっせーぞ。におー!…ん?どうしたその女…」


狽チて鉢合わせ───!!

なにこの素敵な運命の出会いはっ!?神様のばかー!


「あー、なんかな道に迷…」


!?なんでここにいるんだよ?」


もう逃げられないと堪忍したあたしはおずおずと前に出る。


銀髪ちょろ毛の人は状況が理解できないらしく固まってた。


「ごめん…ブン太…。見たかったの。ブン太がテニスしてるとこ。他の女の子が見てて、あたしが見てないのって…なんか、やだったから…」


「だからって……っておい!仁王、いつまで肩に手回してんだよ!」


「おぉスマンの」


慌てて手を解いてくれた。ようやく自由になった。


「あ───‥と。俺の彼女の‥…」


「丸井の彼女さんじゃったか…。んじゃ、先に行っとくからのう」


銀髪さんはちょっと気まずい雰囲気で走っていってしまった。

残されたあたしはと言えば─…。


「‥ブン太?怒ってる?」


「おまえなぁ!もちっと自覚しろよなぁ。‥たく、何人に声掛けられたんだよ?」


「えっ?何人って…さっきの人ともう一人…」


言い終わらない内にブン太の手が高く掲げられる。



殴られる!




固く目を閉じる。


次の瞬間、あたしは


きつく抱き締められていた。


目を開けるとそこには安堵の表情のブン太。


「怒って…ないの?」


「…、無事で良かった…」


なんでそんなに心配してるのかわかんないけど、とにかく怒ってないみたいだし。


「無事…でもないか…。ナンパされかかってたもんな。だから嫌だったんだよなぁ…」


仁王の奴!とつぶやき、あたしに向き直す。


「ここまで来ちゃったけど、試合、見ちゃだめ?」


「まぁ、しょうがねーか。俺の妙技たっぷり見てけよ。その代わり、俺の傍から離れんなよ?」



「うん!」



「…、惚れ直すぜ?」









あたしの自慢の彼氏はなぜだかすごく心配性で、優しくて、かっこよくて、テニスが上手で。


「ブン太…惚れ直しちゃった! 」


「だから言っただろぃ?」


「うん!あたしだけのブン太でいてね」


「誰にモノ言ってんだ?あたりめーだろぃ」


そしてあたし達はまたお互いの体を求め合う。

それはまるで、元あるひとつの形になるように。





Fin