イノリティ








また蓮二とマネージャーが二人で何か話しこんでいる。きっとまた悪巧みをしているに違いない。


「ねーえ?今日、真田ん家遊びに行ってもいーい?」

「俺達が行って何かまずい事がある訳でもあるまい」


まずいに決まっている。
実際、蓮二とマネージャーが揃うとロクな目に合わないのだ。
それに今日の夕飯は俺の大好物の焼肉だと母が言っていたしな。
何か上手い言い訳をして今日は帰ってもら・・・。


「行ってほしいの?来てほしいの?どっち!?」


狽ネんと!?結局来るのではないか!


「はっきりしない男は嫌われるぞ」

「くっ・・・そうだな・・・来てくれ・・・」




俺は焼肉を諦めた・・・。








「へぇー。真田ん家って想像してたよりも広いね」

「そ、そうか?」

「別に真田が偉い訳じゃなくて、親が立派なんだけどね」

「しかし相変わらず古臭い屋敷だな」

「なんか・・・おばけ出そうだよね・・・」


人の最大の楽しみを邪魔してまで我が家に上がり込んでおいて 、言うに事欠いてそれか!?なんて失礼な奴等だ!


「ここが俺の部屋だ。茶を用意するから待っていてくれ」





純日本家屋の庭に面した長い廊下に玉砂利を敷き詰めた日本庭園。
障子の向こうは───・・・








「(-∀-;)・・・柳?ここが真田の部屋・・・?」

「そうだ」

「なんつーか・・・アンティークっつーか、明治維新っつーか、戦後?」

「喩えがよくわからんが。まあ、そんな感じだな」

「だってこれ・・・熊、だよね?」

「ああ、木彫りの熊が鮭をくわえているな」

「普通、一般中学生の部屋にはないよね?」

「ないだろうな」

「・・・・・・・・・とりあえず座ろっか」








「待たせたな。宇治茶でよかったか?」

「あ。本気でお茶なんだ」

「む。気に入らないなら飲むな」

「うわ!サ○マドロップだよ!小さい時食べたなぁ。懐かしい〜」


どうやらお茶請けにと持ってきた飴が好評のようだ。
俺のとっておきのオヤツだからな。よく味わうがよい。


「すまないが、着替えてもいいだろうか?家で制服は落ち着かないのでな」

「ああ、構わないぞ」

「そうか、失礼する」


俺は着替えるため、一旦部屋を出た。







「ねぇ、柳?この飴、食べれるのかな?」

「なぜだ?」

「だってこれ、昭和の匂いがしない?」

「・・・言いたい事はわかるが、ほら見てみろ。賞味期限はちゃんと来年まであるぞ」

「あ、本当だ。なんかね。現行商品じゃない気がしてさ。真田マジック?」







「再三待たせたな」

「あれ?真田、家では和服なの?」

「む。おかしいか?」

「おかしくないよ。むしろ似合ってる」


マネージャーに誉められるなんてはじめてではなかろうか。
気を良くした俺は巻き藁での試し斬りを披露するべく庭に二人を呼んだ。


「真剣か」

「ああ、危ないから下がっていろ」


鞘から刀を取り出す。
和服の袖が邪魔になるので、上半身だけ脱ぐ。
呼吸を整え、精神を統一・・・




いざ!!

「ぶぶっ!なに・・・ちょ・・・無理・・・プ・・・」


なぜかマネージャーが吹きだした。


「『漢一匹』って・・・!」


俺の方を指差している。


「一体どうしたというのだ」

「そのっTシャツ・・・!」

「どうしたのだ?これがなんだというのだ」

「マネージャーは弦一郎のセンスの良さがツボにはまったらしい」

「そうか」

どうやらマネージャーは着物の下に着ていたTシャツを見ているらしい。
マネージャーの笑いが治まりそうにないので、試し斬りは中止し、将棋崩しなどをして有意義に時間を過ごす事にした。








いつの間にやら外も暗くなり、見送りはいい。という二人と玄関で別れ、
焼肉の残り香をおかずに白飯を喰う。
やはり焼肉は食べたかったが、仲間を無碍にする訳にはいかない。
結局何がしたかったのかわからない二人の事を考えながら部屋に戻る。


「ん?」


部屋の中央には先程にはなかったはずの紙袋が鎮座している。
そばには手紙。
ためらいながら手紙を読む。



『弦一郎、誕生日おめでとう。これは皆からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ』

「蓮二・・・!」


俺は流れる涙をそのままに袋に手を掛ける。
どうやら皆で金を出しあって買ったものらしい。
きれいに包装されている包みを丁寧に開ける。


「これは!」


まず目に入ったのは真新しい黒い帽子 。


「世話をかける・・・」


幸村ばりの台詞をつぶやき、まだ他にもあるプレゼントを広げる。


「・・・・・・・・・」


俺は感激の余り言葉を失った。











「真田、喜んでくれてるかなぁ?」

「そうだな。いつもバカにしてばかりだからな。特にマネージャーの選んだプレゼントには感涙だろう」

「だといいな。アレ、絶対真田に似合うよね!」

「フ・・・。そうだな」

「なかなか売ってなかったからね。あの
モモヒキ




今日はちょっとだけ優しい気持ちになれた二人だった。



Fin.










甘夢は無理だったよ。甘はよう。
まー、最初から書く気なかったけどね。えへへ。

ちなみに、一応2度目の誕生日小説なのでS/B(セカンドバースデー)になっとります。
*1回目は「5月21日。」です。

何はともあれ、いつまでも皆の「いじられ真田」でいてください。


2007/5/21