まるめいら
あたしが氷帝学園を卒業して、もうすぐ1年か‥。
あの頃はまだガキだった跡部も立派に部長してて、今年で引退か。
今、あたしの目の前には、かわいい後輩の日吉若がいる。
日吉とはじめて会ったのはあたしが中等部3年生の時。
当時1年の日吉は年の割にクールボーイで、周りの新入生からは少し浮いた存在だった。
実際、そんな日吉がちょっと苦手なタイプでもあった。
春が来て、高等部へ進学した頃から日吉からちょくちょく連絡があり、こうやってたまに会ったりする。
でも素敵な関係ではなくて、最近の出来事や愚痴などを話してさよならする、ただの先輩と後輩。
日吉は思ってたより話しやすい奴で、一緒に中等部で部活やってた時より仲良くなってた。
今日もそんな「たまに」の一日で。
日吉から連絡があった。
「実際、部長後任っていうのも大変なんですよ」
ストローでグレープフルーツジュースをかき混ぜながら、ため息混じりに近況報告する日吉。
あたしはアイスコーヒーにガムシロップを入れるか入れないか悩みながら、日吉の話を聞いてる。
「なんだかんだ、日吉は面倒見いいじゃん」
「あんた簡単に言いますね‥。新入生合わせて何人入ってくると思ってるんですか‥」
「まぁ、あの跡部の後釜は大変かもね」
あたしの手からガムシロを奪い、グラスに全部入れる日吉。
「狽ソょっと!あーぁ‥」
「自分から話ふっといて他事に夢中になってるからですよ。人の話はちゃんと聞いてください」
眉間に少し皺をよせてはいるけど、笑顔でイタズラっこの日吉。まず氷帝では拝めないレアな顔。
「ふふっ」
「…なんですか。気持ち悪い」
「失礼な!──なんかね。日吉も大人になったなぁってね」
あたしの前でだけ見せるその表情がかわいかったから。なんて言うと怒るだろうから。
「ところで、彼女とは仲良くいってるの?テニスばっかりやってると宍戸みたいになるよ」
「あの人と一緒にしないでくださいよ」
プイッとそっぽを向き、ストローをくわえる。
「あはは」
そんな日吉がかわいくて頭をなでる。
「ったく…。子供扱いしないでほしいですね…」
「だってかわいいんだもーん」
あたしにとって日吉は大事な後輩で。かわいい弟みたいな存在で。
「そーゆーあなたはどうなんですか?前言ってた隣のクラスの…」
たまにドキッとさせられるのがあたし自身よくわかんない感情なんだけど。
「あー。ぼちぼちかな」
「‥ケンカですか…。人の世話焼く位なら自分の心配してほしいですよ。まったく」
「ねー。そんな事よりさ。今度ちゃんと紹介してよね。彼女」
「ぜったいやだ」
2〜3ヵ月に一回、毎回こんな感じで、他愛もない話をするだけ。
でもね。不思議に思った事はあるんだよ?
なんであたしなのか。
卒業してまで連絡してくる理由とかね。
実際仲良くなったのはこうやって会いだしてからだし。
「ねぇ、日吉?あたしって日吉から見てどんなかな?」
「………おせっかい?」
「あのねー!!」
いたずらっぽくほほえむ日吉にムキになるあたし。
ファーストフード店でじゃれ合うあたし達は他の人から見てどんなだろう?
「んー。頼れるおねーさんって感じですかね?」
「…!やだ…照れるじゃんかっ!」
お互いに彼氏彼女がいて。
でも同じ時間を共有して。
それが少しだけ後ろめたいけど。
でも恋愛感情という強いものではなくて。
「うーん。なんて言うんかなぁ…」
「さっきから何ブツブツ言ってんですか」
「そーか!あたし、日吉のこと、好きなんだ!」
──ブッ!!
「きったないなぁ!もぅ!」
「あんたこそいきなり何寝言いってんですか!?」
飲みかけのジュースをストローごと飛び散らした日吉にハンカチを渡す。
「なーんでもないよ!」
愛情とは違う、でも愛情に非常によく似た感情。
友情、同情、恋?
‥好き。
こんな「好き」の形もあったんだね。
まだむせてる日吉に。
「あんたいい男になるよ!結婚式には呼んでよね」
「‥そりゃどーも。あんたこそいい女になって下さいよ?──何せ俺が惚れた初めての女なんですからね」
───今。
あたしはどんな顔してんだろ?
きっとすごい真っ赤で。
日吉のしてやったり的な表情を見ればわかる。
「〜〜〜〜!!日吉のばか!先輩をからかうなっつーの!」
「仕返しですよ」
ひどく恋愛感情に似ていて、嫉妬もするんだけれど、愛してるではなくて。
これもひとつの愛情のかたち。
Fin.
どーもー。佐波屋です。
日吉第2弾でございます。
こんな好きの形ってありませんか?
佐波屋にはあるんです!
嫉妬もするんだけど、彼氏とはちょっと違う。
彼の幸せは心から嬉しいけど、でも少し複雑だったり…。
男友達みたいにクールじゃなくて彼氏みたいに熱くもない。
なんなんでしょうね?