みずたまりに【0】








入学式。この日、同じ新入生の彼・柳蓮二くんに恋をした。
ただ彼を見ているだけで胸がきゅって締め付けられて優しい気持ちになれる、そんな恋だった。
。身長166センチとかなり大柄、ショートカット、恋あり・笑いありなスクールライフを夢見る中学1年生。




+ + +




告白もできないままストーカーよろしく柳くんの所属するテニス部に足を運んで早や3年目。あたしたちは3年生に進級した。そして遅ばせながら勝負に出るきっかけができた。




「幸村くん、お願いがあるんだけどいいかな?」

「どうしたの?」

「ほんとに、3年になって今更なんだけど、幸村くんとこのテニス部に入部できないかなーって」

「なんで男テニ?女テニがあるじゃない。あれ、もしかしてさんって実は男だとか?」

「・・・小学生まではよく間違われたけど・・・立派に女です・・・」

「ふふ、冗談だよ。マネージャーとしてだよね?」

「身を粉にして働くから!お願いします!!」


1年2年3年、と見事に同じクラスの幸村精市くん。
今は席が隣ということもありかなり仲良しだ。

そして気付いちゃったんだ。柳くんとお近づきになれる方法。

愛しの柳くんが所属するテニス部の部長、幸村くん。
その幸村くんなら、もしかしたらなんとかしてくれるかもって思ったんだ。


「そうだなぁ・・・。さすがに今俺一人で決めることはできないからね。そうだ、今日テニス部においでよ」

「推薦してくれるの?」

「新1年生の顔合わせがあるからね。もしかしたら勢いで入部できるかもよ」

「勢いって・・・。でもありがとう!!入部できるなら何でもするよ!!」


あたしの恋の第一歩。
踏み出すまでにこんなに時間がかかったけど。
待っててね!柳くん!




+ + +




ジャージに着替えたあたしは入部希望の新1年生に混じり、目の前の光景をただただ見てた。


「クソーッ絶対ぇお前ら三人まとめて倒してやるからな!!No.1は俺だぁ!!」


汗と土と涙でぼろぼろになった、クリクリ頭の新1年生がコートに膝を付き叫んでいる。
『お前ら三人』とはネット越しに彼を見おろしている3年生レギュラー三人。
威勢良くテニス勝負を挑んで、負けた。


「楽しみな新入生だな」

「たわけが」


その1年生はテニスには自信があったらしく、初心者のあたしから見ても中学生とは思えない程の腕前だった。
でも結果、彼らの方が一枚も二枚も上手だった。

冷静に考えるとそりゃそうだ。
名門テニス部と名高いこの立海で、2年生ではすでに部長だった幸村精市くん、副部長の真田弦一郎くんと、我が愛しの柳蓮二くん。
三強といわれるだけあって彼らの強さは先輩OBをも凌ぎ、桁違いで、そんなレギュラーである彼らが新1年生に負けるはずはなかった。
立海テニス部はすでにこの三人が中心のチームになっていた。


でもね。そんなことよりもあたしは目の前で汗を拭いている柳くんに釘付けなのです。


目の保養なのか毒なのか・・・。
最高にかぁっこいいんですけど柳くん!!


まさかこんなに早く、こんなに間近で柳くんのテニスしてる姿が拝めるなんて思ってなかったあたしは、 その他大勢の1年生達に肩を借りてベンチへ向かうクリクリ1年生のことなんかもはや眼中なし。


「中断して悪かったね。さぁ自己紹介を続けようか」


さっきまで試合してたくせに、汗ひとつかいていない幸村くんが笑顔であたしに視線を向ける。

ほんの20分前、あたしの横にいたクリクリ1年生の挑発的な自己紹介のせいで順番待ちしてたんだ。

さっきまでざわついていた場が幸村くんの一言で治まり、代わりに好奇の目があたしに向けられる。
もちろん柳くんも。


「あのっ、3年生なんですが・・・!」

「お前、こんな細い腕でラケットが握れるのか」


自己紹介を遮り、真田くんがおもむろにあたしの目の前に立ちはばかった。
その距離わずか30センチのところで品定めでもしているかのように、腕を組み、あたしを睨みつける。


「え・・・ラケットって・・・?あの、選手じゃなく、」

「胸筋・前腕筋・握力もなさそうだな。遊びの延長と考えているなら帰れ!」



瞬間、この場にいた全員が凍りついた。



「すっ、すまん!!」


胸筋チェックのつもりであたしの胸に手をあてただろう真田くんは、あたしのAカップから慌てて手を離す。


「お、お前、おんな!?おと、男だとおも・・・っ、本当にすまん!!」


あたしは両腕をだらんと下げたまま、視線を自分の胸からゆっくりと目の前の真田くんに戻す。


「あたしの・・・」

「わざとではない!誓う!本当に間違えただけなのだ!」



「・・・・・どこが男だってゆーのさ!!Aカップばかにすんな!どらぁ!!」




柔道歴7年。

身に染み付いた一本背負いが見事に決まり、パンパンと手を払い地べたでのびている真田くんを見下すと、うわ言のようになにかゴニョゴニョ言ってる。


「ふふっ。まさか男と間違われるなんてね」

「悪かったねーだ!」


小学生まではこの外見でよく間違われた。
でも柔道やってると長い髪は邪魔なだけで、今まで伸ばしたことはない。
でも恋に目覚めてからは、女の子らしく振舞ってきたつもりだった。


笑顔のまま事の一部始終を傍観していた幸村くんは、まるでこうなることをわかっていたかのように、まだ仰向けで意識を失っている真田くんの前に座り


「彼女はマネージャー希望のさん。彼女の入部に文句はないよね?」


と、あっさりあたしの入部を許可したのだ。




+ + +




あたし、
身長166センチ、柔道歴7年、伸ばし始めたばかりのショートカット。
柳くんに恋する中学3年生。



テニス部マネージャーを襲名。






Fin.