シックセンス








練習中に珍しく不二が声を掛けてきた。




「手塚、最近何かあったの?心ここにあらずって感じだよ」


「ああ。何もない。心配させたならすまなかったな」


「そう。それならいいけど」




他にも何か言いたげな不二を無言で突き放す。




不二の言うことは的を得ている。そう。俺は今、悩んでいる。


勉強もテニスも身が入らない程に。


そしてこの俺を困らせているモノの名を俺は知ってしまった。


それは



−−−恋−−…‥。



いつも不二と一緒にいる




どうやら俺は「恋」というものを知ったと同時に「失恋」したらしい。




普段は無表情で感情が薄いと言われるが…


不二と一緒にいるの楽しそうな顔を見るだけで


胸の奥が何かにギュッと鷲掴みにされたような感覚が襲ってくる。


とてもポーカーフェイスでなんていられない。



これが恋……。



に冷たい態度をとってしまうのは嫉妬…?



だがお前は悪くない。



悪いのは



自分の感情を曝け出さないように


これ以上好きにならないように


無理して


つっぱっている俺なのだから。




そう。不二にも悟られる位、嫉妬していたんだ。




まったく…。俺は何をやってるんだ。


だけでなく、不二にまで。


感情をコントロール出来ない。


「手塚…」


「なんだ」


「僕は友達として君に忠告するよ」




あぁ。不二の言いたいことは分かっている。


を諦めろ。だろう?



がお前の彼女だと言うことは分かっているし


そうしなければいけない事も重々承知している。





「なんでも一人で決着つけようとするの、手塚の悪い癖だよ」


諭すように言っている意味がよく理解できない。


「他の事はよく見えてるのに自分の事は見えないの?」




それだけ言うと不二はいつもの様に「フフ」と笑い右手の人差し指で俺の後方を指す。


何だというんだ。これ以上、俺を悩ませないでくれ。


不二の指差した先にはがいた。



「ほら。行きなよ」


「なぜ俺が行…」


「知ってた?僕達は付き合ってなんかいないよ」


不二の顔は笑っていたが、瞳の奥は哀しい色を湛えている。


「もちろん僕は彼女の事が好きだった。でも彼女が求めているのは僕じゃないんだよ」


「不二…。俺は…」


「手塚、他人の心配より自分の未来を考えなよ」






不二の言葉に背中を押されのいる場所へ歩きだす。



「泣かせたりしたら次は遠慮しないよ」





に向かって歩きながら俺はロシュフコーの言葉を思い出していた。



『友情にとって最大の冒険とは、自分の欠点を友達に明かす事ではなく、友達の欠点を彼自身に見せる事である』



不二…。



そうだな。俺は間違っていた。



俺は大きな一歩を踏み出した。



HAPPY BIRTHDAY!




2006.10.7






Fin.