もも








「…っ!やめてください!」

友達の家からの帰り道

駅についた時はお店のショーウィンドウからの光が眩しかったのに

今は暗い公園で、知らない男が私に覆いかぶさっている

「ここまでついてきたって事は、期待してたんだろ?」

男はニヤリと笑って私を押さえる手に力を込める

「痛…!違います!放して!」

もうだめ…

私、きっとこの大男に乱暴されるんだ…

「誰か…たす…」

その時

「おい何やってんだ?その女、嫌がってるだろうが」

通りかかった人に声をかけられた

ここからじゃ暗くて顔が見えないけど、細身の男の人だ

「うるせー!テメーには関係ないだろ?引っ込んでろよ」

私は必死に助けを求めた

「お願い!助けて下さいっ!!」

「くく…だってさ。これで俺も立派な関係者になったわけだが?」

「くっ、この女!黙ってろ!」

大男が私に拳を振り上げた

「!!」 殴られる!!

「だからやめろ」

大男の拳は、あの人に握り締められていて、振り下ろされずにいた

「いちいち邪魔すんな!やんのかテメー!」

「やっていいなら」

「ふざけんな!!」

勢い良く向かった大男を、その人は、いともあっさりと蹴り一発でのしてしまった

「なんだ、口だけか」

私は恐くて震えていたのと、助かって嬉しかったのと、 こんな細い人が大男を一撃で倒してしまった驚きとで、声が出なかった

「ほら、あんた、大丈夫か?」

差し伸べられた手を掴むと、今更涙が溢れてきた

「…あ、あり…」

「なんだ泣いてんのか?ほら立てよ」

全身が震えて、立ち上がれない

お礼もちゃんと言えてない

「もう大丈夫だから、泣くな」

ふわっと私を包み込む優しい腕

顔を上げると、その人は私を全ての敵から守るように、抱き締めてくれていた

「もう恐くないから、行くぞ」

やっと見えたその人の顔は、隣のクラスの日吉若だった






「お前、あそこで何してたんだ?…いや、言いたくないなら言わなくていい…」

家まで送ってくれるという日吉くんの提案に、甘える事にした

私は日吉くんの顔と名前、テニス部次期部長候補と言う事しか知らない

でも今、肩を並べて歩いている

「道、聞かれて…」

「それで案内したらあの有様か」

「うん…」

人の出会いには多少なりとも運命が関係してると思う

「そんなの手口だろうが」

「うん…」

もし、日吉くんが通りかかってくれなかったら…と思うと、体がまた震え出した

「日吉…くんは、どうしてあんな所にいたの?」

「自主トレ。ロードワークのコースだからな」

「あ、そうなんだ…ごめんね。練習、中断させちゃったね…」

「気にすんな」

優しい…

と思った

この人の事をもっと知りたい

とも思った

今日の出会いに

運命を感じていた








あれから私達は学校でも話を交わすようになった

都合が合えばお昼を一緒に食べるようになった

待ち合わせして帰ることが多くなった

休みの日には同じ時間を過ごすようになった

お互いを名前で呼び合うようになった

まだ、気持ちを伝えられずにいた





「遅いなぁ。どうしたんだろう」

若が時間に遅れる事は今まで一度もなかった

「映画、始まっちゃうよ…」

二人で逢う時は、携帯を持たないって約束を作った

理由は『誰にも邪魔されたくないから』

私が言い出したんだけど、若は何も理由を聞かずに「フッ」と笑いながら承諾してくれた

「…なるほど。こうゆう時の為に携帯は必要ね」

ここから動くと、すれ違いになるかもと思い、私は待ち合わせ場所から動けないでいた

「うーん。遅いなぁ。一時間経っちゃった。もしかして、時間を間違えてるのかなぁ」

時間に正確な若が来ない事に、少し不安になりつつも、あと一時間待ってみる事にした







程なく

「…、待たせて悪かったな…」

「おっそい!めずらしいね、遅れるなん…」

振り向きながら私は言葉を失った

「どうしたの!?」

明らかに殴られた傷、血も出ていたし、服も汚れていた

「なんでもない。気にすんな」

「気にするよ!こんな傷だらけで…一体何があったの!?」

「映画、間に合わなかったな」

「若!答えて!!」

若は古武術をやっていて、そんじょそこらの奴に、ここまでボロボロにされる筈はない。理由があるに決まってる

「…待ち伏せされて、やられた」

「なんで?いつもの若なら軽くかわせるじゃない!ここまで一方的に殴られないでしょ?」

「…全国、行きたいからな…手は出してない」

若の目を見て、確信してしまった

あの時の大男にやられたんだ!全国、なんてもっともらしい事言ってるけど、きっと私をかばってる

若の優しさに、私は人目も気にせず泣き出してしまっていた

「若…ごめん…」

若は私の頭を撫でながら

「泣くなよ。は関係ない。遅れて悪かったな」

「なんで若が謝るの…?私のせいで…!!」

若は優しい

もう我慢できない

想いを伝えたい

「私、若の事が…!」

…」

若のあの優しい手が、私の口をふさぐ

は俺が守るから。これから一生、俺の傍にいろよ」

嬉しくて

嬉しくて

うなずくと

若はあの時と同じ、優しく抱き締めてくれていた












Fin.