タブー
我が立海テニス部の部員である丸井ブン太くんには妙な癖があります。
語り 柳生比呂士
「丸井、ちょっといいかな?」
「ゲッ幸村?」
「ゲッ!ってひどいなぁ。ところで、その手に持ってるものはなぁにぃ〜?」
丸井くんの手には今さっき拾ったばかりのクッキー。
「いや、これは、その。べっ別に食べようとかそんなんじゃなくて…」
「毎回毎回、拾い食いすんな言うのが
わからんのかワレー!(-言-)」
「ビエー!(T□T)すいませんすいませ…!!」
……
号泣で土下座。
丸井くんは何でも拾う癖があるらしく、それは食べ物にとどまらず動物やお金、粗大ゴミなんて時もありました。
丸井くんの拾ってきたものは全て部室に持ち込み、誰彼かまわず見せびらかします。
まるで獲物を捕まえた時の猫のようです。
そして、拾い食いすんなとか、部室が狭くなるだとか幸村君に怒られてばかりです。
我が立海では然程めずらしい光景ではないのです。
ある日、私が部室で読書をしていると丸井くんがやってきました。
「お!柳生いたのか。ちょっとこれ見てみ」
丸井くんはまた何やら拾ってきたようです。
これ。と言われても特に目につくものは何もなくキョロキョロしていると
「どこ見てんだよ!ここだよ!」
指さしたのは部室の外。
余程大きなものなんでしょうか。私は恐る恐るドアの向こう側を覗き込みました。
(-∀-;)
「丸井くん、これはどこで拾ってきたんですか…?」
彼は誇らしげに胸を反らして
「ここに来る途中に落ちてたんだよ。重かったぜぃ」
「こっ!こんなのが落ちてるはずないじゃないですかっ!!
だってこれ人間ですよ!
ってゆーか生きてるんですか?コレ?医務室…いや、救急車の方が…?」
「お前、もちっと落ち着けよなー」
「これでどうして落ち着いていられますかっ!?」
いつかこんな日が来るんじゃないかと予想していましたが…。
これってば犯罪の匂いがプンプンなのではないでしょーかっ!?
念のために。と生死の確認をしていると
「何やってんのかな?」
「「うわっ!!」」
今一番来てほしくない人が笑顔で登場してしまいました。
「幸村君っ!実は丸井君がまたっ…」
拾ってきた…と言う言葉を飲み込み、チラリと丸井君を見てみると
買Kビーン! 私を指差し顔を横にブンブンと振っています。
あぁ…そうなんですね…。私に罪を着せるつもりなんですね…。
少しでも丸井君に同情した私が馬鹿でした…。
「これは…私は無実で…」
「丸井〜?今すぐに元いた場所に戻しておいで?(-言-)」
( ̄ロ ̄lll)
私の事を疑いもせず、信用してくれた事は感謝します。けど!犬や猫じゃないんですから!元いた場所って…!
「いやだ!俺、こいつ飼う!」
えっ?何言ってるんですか?この人。
「ダメ」
「ちゃんと面倒見るから!お願い!」
「ダメ」
「宿題もちゃんとするし、家の手伝いもするからー!!」
…丸井君…混乱しすぎですよ…。
「ダメ(-言-)」
「ビエーン(≧ロ≦)」
幸村君に逆らえるハズなんてないのです。
「あれ、柳生いい所に」
「さっきからずっと居ましたが…」
「それ(人間)どっかに戻しておいてよ」
「わっ、私がですかっ!?」
「うん」
「どっかって…いったいどのあたりでしょう…?」
「さぁ?」
「狽ウぁ?って!!しかもコレ人間ですよ!私に死体遺棄をしろと…!」←注1)まだ死んでない
「焼却炉なんてどうかな?」
「曝bを聞いてください!焼却炉って、証拠隠滅ですかっ!?」←注2)燃やせとも言ってない
「やっぱり元いた場所かなぁ?」
「だーかーらー!話を…!って、目撃されたらどうするんですかっ!私が犯人ですか!?」←注3)動揺しすぎ
「うん。やっぱり校門でいいよ。コレの知り合いが持って帰ってくれるかもしれないしね」
「……( ̄ロ ̄lll)」
「何してるの?早く置いてきてよ」
この人は…!!鬼ですかっ!
…私は決して権力に負けた訳ではありません。
確かに、今こうしてコレを担いで歩いてはいますが…。
私は自分が一番可愛いのです!!あの人は敵に回しちゃいけない人物なのです!
「柳生よー。もちっと自分さらけだして行こうぜ」
「狽なたが言わないで下さい!
さっきまでビービー泣いてたくせにっ!」
「ほら、校門だぜぃ」
まったく、誰のおかげでこんな目に合わされてると思ってるんですか!
「しかし思った以上に重かったですね」
「柳生、今のおもしろくねーよ…」
「買Vャレを言った訳ではありません!!それより少しは手伝って下さいよ」
よいしょ。とコレを降ろす。
「もう二度とへんな物は拾ってこないで下さいね(迷惑ですから)」
「わーかってるって」
一番信用できないセリフなのは分かっていましたが、今はそんな事の追求よりも、早くここから立ち去りたい!
しかし私も人の子です。コレをここに置き去りにする事に罪の意識がない訳ではありません。
でも!私は自分が一番可愛いのです!!
目撃者が誰もいないのを確認し、字の如く逃げるようにその場を離れました。
この日の私の走りっぷりは自己ベストを大幅に更新したことでしょう。
アレと再会したのは関東大会でした。
氷帝学園、芥川慈郎。
芥川くんの懐きようから見て、丸井君があの後拾って飼っていたであろう憶測は私の胸にしまっておきましょう。
Fin.