止まない








今日9月25日は赤也の誕生日。


想像してた通り、たくさんのプレゼントを抱えて教室に入ってきた。


「赤也、おはよ!朝っぱらからモテる男は大変ね」

「まったくだぜ〜。モテすぎんのも問題だよなぁ」


口ではあんな事言ってても、まんざらでもない顔。


「さすがはエースさん。ご愁傷さま」


皮肉ってみたのに赤也ってば教室の外に群がる女の子達に愛想ふりまいてて聞いちゃいない。


「フンだ。赤也なんか揉みくちゃになって髪の毛なんてもっと縮れるがいいわ!」









休み時間ごとに増えるプレゼント。

私はそっとかばんの中を確認した。




赤也の足元には綺麗にラッピングされたプレゼント達。

私のとは比べものにならないね…。









あたしの席は赤也の後ろで。
赤也は何かあるたびに話し掛けてくれた。
最初はなんて人懐っこい人だろうなんて思っただけだった。
けど
ニカッって笑って「」って呼んでくれた時に赤也にズキュンとやられました。







「別に深い意味なんてないって分かってるんだけどね。」




「なにが?」

赤也が振り向き興味津々に聞いてくる。


聞かれてた?


あたしは冷静を装って

「ほら、先生こっち見てる。赤也、あてられるよ」

「うわやっべ!」

慌てて前に向き直し、教科書を立てて顔を隠す。








授業中もこんな事考えるなんて重傷ね…。




でも、このプレゼントだけは今日中に渡したい。

だって今日は赤也の誕生日。

赤也と出会えたのも赤也がこの世に生まれてくれたから。

自己満足でいい、祝いたい。

プレゼントだって軽い感じで渡しちゃえばいい。










昼休みのチャイムが鳴り、立ち上がる赤也を思い切って呼び止めた。


「赤也、ちょっと…」

さり気なく渡せばいい。ただそれだけ。
告白なんてまだしなくていい。


「あー腹減った!何?」

「あのさ」


その時廊下の方から赤也を呼ぶ声がした。


「赤也、ちょっと来い!」

「うわぁ副部長…怒ってんなぁ。あの人怒らせると恐いんだよなぁ。ところでの用事って何だっけ?」


「あ、いや…チャック開いてるよ」


「おまえ本当に女かよ!」



少しだけ開いてるチャックを上げながら副部長だと言う人の方へ走っていく。



あぁ…あたしのバカ(T□T)



言いたい事が素直に言えない病なんだ。





でもお陰さまで、と言うか赤也は他の女の子達よりも仲良くしてくれた。

自意識過剰かな?








これで残すチャンスは部活前と部活後の二回。


家まで届けるなんて恥ずかしい事はできない。








始業チャイムと共に戻ってきた赤也は不機嫌そうだった。


「どうしたの?怒られた?」


残りのチャンスをムダにしないため、情報収集とばかりにさり気なく聞き出す。


「あー。今日柿の木中で練習試合があんだけど、授業終わったらソッコー集合でさ。俺、遅刻魔だからってんでわざわざ念押されてさぁ」





え?

チャンスゼロ。


もう赤也が話してる事も、いつの間にか始まってる授業の内容も全てがシャットアウト。








授業を終えるチャイムも耳には入らず、気付けば教室に残ってるのはあたしひとりだった。

もちろん赤也もいない。




「ショックの余り、現実逃避してたわ…」




我に返り帰り支度をしながらふと思う。



このプレゼント、赤也の机の中に入れとこうか…。なんて。






それはダメ。だって赤也がそれに気付くのは明日。明日じゃ意味がないんだ。



出しかけたプレゼントをカバンに戻し、誰もいない教室を後にする。






なんとなくテニスコートの脇を通る。

いつもは聞こえるはずのボールの音がしない。

当たり前だ。練習試合に行ってるんだから。






家に向かう帰り道。

気持ちの整頓をする。






おめでとうは明日、改めて言おう。

あたしはそんな気の合うクラスメートのポジションが一番似合うんだ。





告白する勇気のないあたしにはちょうどいいのかもしれない。







朝から緊張していたあたしはようやく楽になった。




「うん。これでこそ!悩んでるのは性に合わないっての!」



荷がおりたあたしは鼻歌なんか口ずさみながら自宅の門を開ける。













「俺、まだから祝ってもらってないんたけど…」


え?あたしは自分の目と耳を疑った。


振り向いたそこには、いるはずのない人がいたから。


「まさか何もないなんて言わないよな?」

「…あ、赤也〜!?部活は?試合は?何その格好?なんでここにいるの?」

「いっぺんに何個も質問すんなよな。部活は早退。試合は13分で勝ってきたし、そのままソッコーで戻ってきたからジャージのまま。
ここに来たのはに会うため。他に聞きたいことは?」

「いえ…特に…」


驚く隙さえも与えてくれず、赤也はニカッって笑って。


「俺、に祝ってもらいたいんだよ!」






反則だよ…。


せっかく気持ちが軽くなったばっかなのに…。


赤也にはかなわないな。





あたしはカバンから準備していたプレゼントを赤也に渡した。

「赤也、おめでとう。」

「サンキュー!!ずっと欲しかった!」

赤也はプレゼントごと、あたしを抱き締めた。

え?え?えー!?

「ずっとが欲しかった。俺の彼女になってよ」



夢…?



ううん。違う。



だって、あたしを抱く赤也の腕の強さ。



赤也の心音。



少しだけ汗のにおいも、そう。



あたしのすぐ近くにある。




「うん」








赤也の為の誕生日。


二人の記念日。


「赤也、おめでとう。大好きだよ!」






2006.9.25







Fin.